街角で歌い始め、関西では MUSIC BUSKER AWARD LIVE において初代グランプリを獲得、関西最大級サーキットフェス MINAMI WHEELでは4年間出演を果たすなど、弾き語りインディーズの世界でその支持は多く、今も日々歩み続けるシンガーソングライターアダチケンゴ。2024年現在、活動歴は14年を数え、ライブハウスから大型フェスまで、全国各地でその歌声を届けている。沢山の葛藤と苦難を超えたからこその彼の真摯な姿勢と飾らない言葉が、多くのファンの心を揺さぶり続けている。
アダチケンゴさんにとって、音楽の原点はどこにありますか?
僕の音楽のきっかけは家族ですね。実の父は僕が2歳の時に心臓病で亡くなりました。父はドラマーで、高校生の頃にはチューリップさんの前座を務めたり、テレビの音楽番組に出演するほど音楽に真剣だったそうです。ただ、心臓病を患ってドラムが叩けなくなり、ボーカルに転向しました。
父の生き様を知ることができたのは高校生の頃で、母から父のデモテープをもらった時でした。初めてその歌声を聞いた瞬間に感動したのを覚えています。
僕が9歳の頃に母が再婚し、新しい父は僕が高校生の頃、弾き語りのアーティストが活躍しはじめ音楽に興味を持った際「これ弾いてみるか」と当時使っていたギターをくれました。そのギターを弾き始めたことで、音楽が身近な存在に。2人の父親が僕に音楽を教えてくれたと言っても過言ではありません。
また、小さい頃は母親にカラオケに連れて行ってもらう機会も多く、そこで流れていた歌謡曲にも影響を受けました。おばちゃんたちに「かわいいなぁ」と可愛がられながら(笑)音楽には小さい頃から囲まれていましたね。
音楽活動を本格的に始めたきっかけは何だったのでしょうか?
大学では教職課程を履修しながら、音楽活動も続けていました。音楽コンテストで何度か賞をいただいたこともあります。ただ、当時はプライドが邪魔をして、音楽関係者からの誘いを断ったこともありました。卒業後は就職して広島で働きながらストリートライブをしていたんです。当時はストリートブームで、本当に沢山の人が足を止めてくれていて。
そんな中、広島のラジオ局の方が僕の路上パフォーマンスを見つけてくれて、取材を受けることになりました。そのインタビュー記事がフリーペーパーに掲載されたんですが、仕事の休憩中にそのフリーペーパーを偶然見つけて「これが自分のやりたいことなんだ」と実感したんです。その瞬間、「やっぱり僕は音楽で生きていくしかない」と確信しました。
一番の苦難な道のりはどんなものでしたか?
広島から帰ってきて、本格的に音楽をやろうと決意しました。その後、メジャーデビューのチャンスが巡ってきたんです。あるバンドに加入し、音楽活動を始めましたが、自分の個性が消されていくことに苦しみました。
ディレクターには「瘦せすぎている」と言われて、「10キロ太らなければデビューさせない」とまで言われて。太るためにプロテインを飲むなど無理をした結果、逆にストレスで痩せてしまい体重は49キロまで落ちてしまいました。オリジナル曲を歌うことも禁止され、給与も支払われず、生活費は借金で賄うしかない状態でした。この頃は本当に人生で一番苦しかった時期です。
ソロ活動を始めたきっかけを教えてください。
バンド活動中に、勝手に一度だけオリジナル曲を路上で披露したことがありました。その時に初めて聴いてくれた方から「オリジナル曲が素晴らしかった」とコメントをもらって、「僕の音楽を認めてくれる人がいるんだ」と感じたんです。これが自信となり、2010年12月にソロ活動をスタートしました。
ソロになってからは、自分の感情をさらけ出した音楽を届けたいという思いが強くなりました。悲しいことも嬉しいことも、全て包み隠さず歌う。そんな僕を好きになってライブに来てくれる人がいることが本当にありがたいです。
アルバム「ボクノマホロバ」について教えてください。
「まほろば」という言葉には「心地よい場所」や「理想郷」という意味があります。このアルバムは、僕の音楽を好きでいてくれる人たちにとって、居心地の良い場所になればという思いを込めて作りました。曲の中には、僕の素直な感情を描いたものも多いです。人間の感情らしい色んな側面を歌にしました。僕の音楽を好きになってくれたら、それがあなたにとっての「まほろば」になればというような気持ちで。ジャケットは青木猿頬さんという絵師の方が描いてくれています。
「信じていれば大丈夫」とか綺麗な言葉ばかりを並べた歌を聴くときもあるじゃないですか。歌っている本人がいっぱいいっぱいだったり、楽屋では真逆な性格をしていたり人を大切にしていない事実を目の当たりにしたりする中、書き下ろした化け皮レクイエムという歌もあります。
僕はありのままの自分をさらけ出して、綺麗ごとだけじゃない人の感情を歌詞にしたり、恋愛のことも色んな事も、偽りなくアダチケンゴそのものを知ってもらったうえで、それでも好きでいてくれる人がいるなら感謝でいっぱいだしその人達のためにも全力で歌っていきたいですね。
これから音楽を目指す若いアーティストに向けて伝えたいことはありますか?
まず、歌をちゃんと歌うことが大事だって伝えたいです。感動する歌詞やメロディも大切ですが、ライブで届けるのはお金という対価を払ってお客さんが聴いて心動かす力なんです。そのためにはピッチなどの細部に拘りが必要だし、パフォーマンスを磨いていくことが重要だと思います。技術や努力を積み重ねた先に、人に届く音楽が生まれるんです。
狭い場所だけで活動をはじめて、人の意見を鵜呑みにして楽しさを忘れてその芽を諦めてしまうシンガーさんもたくさん見てきました。活動できる場所はたくさんあります。マイナスな環境に身を置く必要はありません。「この環境で自分はこんなことができる」と前向きに発信していくことが大切です。うまい話には気をつけて、自分のらしさを失わないようにしてください。
現在の音楽シーンについてどう感じていますか?
今、シンガーソングライター界隈は一番厳しい状況だと思います。若い子たちはSNS配信に行く傾向が強く、ライブハウスの集客も以前ほどではありません。このシーンを盛り上げるには、僕ら一人一人が地道に活動を続けることが必要です。それが形になれば、少しずつでも回復していくと思います。
読んでいる方にメッセージをお願いします
僕はこれからも自分の感情をありのまま歌にして届けていきます。喜びも悲しみも、嘘偽りなくさらけ出すことで、共感してもらえるものがあると信じています。ライブで直接お会いできるのを楽しみにしています。いつでもお越しください。