時代と共に音楽と人との繋がり方が変化する中で、音楽業界に身を置く人々はどのようなことを考え、何を感じているのだろうか。殺伐とした空気だった数年前、コロナ渦という厳しい環境に立ち向かう音をこよなく愛する人がいた。株式会社SOARS MUSIC代表、片山行茂。彼の願う音楽のカタチとは何か、彼の物語に迫ってみた。
「希望の歌」DREAMER ミュージカル キャスト リモートMV 希望の歌 ~笑顔で会える日を夢見て~
片山さんは子どもの頃、どんなきっかけで音楽に興味を持ち、この業界に進もうと思ったのですか。
一番初めに影響を受けたのは、幼少期に見た一つの映画でした。つか こうへい(劇作家・演出家・小説家)の作品「蒲田行進曲」を母親に連れられ観に行ったんです。そこで一つの作品の中で笑って泣いて、感情が揺さぶられたんですよ。映画が終わってから、キャストが つかさんに花束を渡していたんです。脚本・演出として画面に大きく つか こうへいと名前がバン!と出たときに「この作品を手掛けた人なんだ、こんな人みたいになりたいな」とその時に思ったんです。
ただ、どうやって脚本家になるのかイメージが湧かなくて、とりあえず漫画を描き始めたんです。絵は親戚からも褒められていたので気分良く描いていましたね(笑)中学に入った時に、身長が130㎝程しかなくて。何の競技をしても負けていたんです。その中で絵を描いていると皆が周りに集まってくれることが嬉しかったんです。当時の僕の自己表現のカタチが絵だったんです。ところがある日、隣のクラスにアコースティックギターで弾き語りする子が現れて、僕の周りに集まってくれていた子がみんな流れていったんですよ。振り返ると、それが音楽を始めるきっかけだったのだと思います。当時長渕剛さんや松山千春さんをはじめとするフォークソング全盛期だったんですが、僕は長渕剛さんが当時大好きで。自分もやってみようとアルバイトで貯めたお金で安いアコースティックギターを買って音楽を始めました。歌詞とメロディだけで人の心を掴む音楽の魅力を知った瞬間でした。音楽で有名になってフェスティバルホールに立てるようになれば、脚本家や演出家にもなれるのではないか。そう思った部分もありました。
高校時代にバンドを組んで、それから20代後半までは音楽をしているか仕事をしているかのどちらかくらい音楽に明け暮れた生活でした。就職もしたんですけれど「音楽で有名になりたい!」という気持ちが大きくて、表現を楽しむというよりもただただ知名度を求めていた時期でもありました。東京でデビューし3年程頑張っていたんですがなかなか思うようにいかなくて、結果的に売れなかったんです。バンドからソロになり、自分に足りない部分が次々に見えてきて、当時のファンも毎月のように減っていくのを感じました。その時に自分自身が心を込めて表現できていないなって思って、もう無理だ。と音楽が嫌になっていきました。
東京から大阪に帰ってきたのが28歳でした。音楽は聴きたくないくらいに追い詰められていました。数か月前まではステージに立っていたのに、一転して天王寺駅の屋根のスス払いの仕事をしていたんです。その当時は気持ち的に辛かったですね。29歳の誕生日の時には、手元に何もない自分が嫌になって「死にたい」とまで思っていました。音楽しかなかったから。それを手放した途端に目の前が真っ暗になったように。
けれど、一つ気が付いたことがあって。親戚のお弁当屋さんの仕事を手伝っていた時に、自分が盛り付けたお弁当をみて凄い喜んでくれたお客さんがいて。その表情をみて、凄く嬉しくなったんです。その時に感じたのが、作るモノが例えばお弁当だとしても、洋服であっても、そして音楽も同じように。作り手によって見た目も雰囲気も違うから面白くて、そして自分が作ったモノで誰かが喜んでくれる。その嬉しい気持ちを思い出したんです。その時期に、丁度周りの人に「音楽の道で頑張ってほしい」と背中を押してもらったことをきっかけに梅田のamHALLで働き始めたんです。一人のスタッフとして、ドリンク出したりしながら働いていましたね。
SOARS MUSICを設立した背景の思いや、Soap opera classicsやamHALLの運営を通じて、どのような変遷を経てきましたか?
amHALLで働いた頃、自分より若手のアーティストをみて色々思っていたんです。もっとこうしたら良さが際立ちそうやな、とか。同時に自分も若かったので悔しい気持ちもありながら。そんな葛藤の中で1、2年過ごしていて、明らかに凄い才能と出会ったとき「何かこの子たちの良さを底上げできることできないかな」と思う機会が増えていて、そう思う頃には店長になっていたんです。店長として色々なことを仕切り初めて、当時は同時に4店舗程ライブハウスをみていたんですが、時代の変化と共に運営が厳しくなって潰れてしまったライブハウスもあったりして。そんな中でも、ライブが好きな人は好きだし生音の素晴らしさを伝え続けたいという強い思いで、その後社長というカタチになっていったんです。
日々音楽と向き合い続ける中で、アコースティック専門のライブハウスを作ってみようと思いSoap opera classicsを作ったんです。
Soap opera classicsでは、ブッキングライブの際もトークショーを挟んだり演者同士のコラボもあります。一つのイベントにそれぞれ特色がありますが、そのようなスタイルをしようと思った経緯はありますか
同じ日に重なった出演者がお互いを知ることで、人と人との化学反応が起きてそこに来ていたお客様がより一層楽しめるのではないか、と思ったんです。イベントにストーリー性を持たせることによって「このイベントに来たら楽しめる」と興味を思っていただけると集客にも繋がるのではないかなと。今のスタイルが生まれた理由として、他の場所でもブッキングライブを組んでいて感じたことなのですが、近年対バンという魅力が減ってきているという感覚があったんです。
例えば、4組集めてブッキングライブがある。お客様が、目当てのアーティストが終わったら帰ってしまう。というようなケースが増えてきたんです。アーティストごとにお客様が入れ替わるような状況でした。そうするとトップバッターとトリ(一番最後の演者)の時にお客様が少ないという現状が生まれてしまい、アーティスト側からも「できれば2、3番手でお願いします」という声も上がってきたんです。イベントとしては物語と同じで、最初と最後はとても重要だと思っているんです。最初から最後まで違った面白さを体感してほしい。何番手であっても、その日のイベントのバトンを繋ぎ皆で作り上げるカタチはどうしたらいいのか。お客様が退屈しない何かを考えることで。最初から最後までその日のイベントとして見てもらえるのではないか、と思ったんです。
皆で作り上げる、という点ではSOARS MUSICの特徴としてミュージカルがあります。制作を通じて、どのような体験を出演者や観客に届けたいと考えていますか?
ライブ一つだとしても、歌は勿論のことMCで次の歌の背景やイメージ、より惹きこまれるような何か言葉を伝えるだけでお客様への届き方は変わっていくんですよね。ミュージカルも、ひとつひとつの台詞と歌があって、役者の動きや少しの間でも伝わり方が変わる面白さがある。2時間ほどの時間椅子に座って、ただ平坦に流れるものを見るよりも、その些細な表現の刺激で観客の心に残るモノって言葉では表せないほどのチカラを持っていると僕は思うんです。たった一つの作品で人生観が変わるほどの感動を伝えられるミュージカルのチカラには凄い可能性を感じていて、制作過程は本当に大変なのですがその分出来上がったときにお客様から頂く言葉には感謝でいっぱいですね。
もう一つこのミュージカルをしようと思った理由にあるのは、あるアーティストの言葉や姿だったんです。何年も活躍しているアーティストでも、音楽をしていくなかで、やっぱり葛藤があって。達成感を見失ったり、方向性に彷徨い音楽の楽しさを忘れかけてしまうような時って誰しもあって。ある一人の子が「来年音楽やってないかもしれないです」て僕に言ったんですよ。その言葉を言うのにも勇気が必要だっただろうし、凄くいい音楽をしているのにそれは勿体ないと思って。もっと多くの人に見てもらえたらもっといい歌を歌っていくだろうって。その時に「この人気のSSWと、この役者とあのダンサーが一緒に一つのカタチを作ったらどうなるやろう」と思ったんです。強烈な個性たちがぶつかると、きっともの凄いチカラが生まれると。そう考え始め、脚本を書き出したのが、この冬に公演する舞台DREAMERをはじめとするミュージカルです。今まで同じ土俵で戦ってきた人たちが一つのものをつくる。お互いの良さに気づいたり、尊重し合ったり、お客様からみても新しい発見があったりすると思うんですよね。
例えば、役者や歌だけしかしてない人からみると「真似事」にみえたりするかもしれない。だけれどいざ足を運んでいただいたら「なかなかいいやん」と思っていただける自信はあるんですよね。声楽的な要素は勿論、他に無いところでいうと僕自身が歩んできたポップスであったりロックの要素も取り入れているので色んな分野の方面から楽しんでいただけると思いますね。
おかげさまでお席も売り出して数秒で完売になったりと、期待も伝わるのでその期待に応えられるように取り組みたいと思っていますね。沢山の方が、出演の意思を示してくださったりチケットを手に取っていただいていたり。それだけ期待していただけることは本当に幸せやなと感じています。実はこの作品、沢山の伏線を張っていて、2回目見たら分かる気付き、何度見ても楽しめるようなモノを散りばめたんです。チームによって色も見え方も全然違うので、見終わったらもう離れられないくらい魅力を込めたので注目してほしいですね。
近年、携帯のネット配信動画が増えCDが売れなくなってきた時代のように思います。今後、ライブハウスとしての課題などありますか。
数年前、それこそコロナのクラスターが起きる前、心斎橋にSOARS MUSIC LABという場所があったんです。そこでは毎日アーティストが日替わりでツイキャス配信を行ったりレコーディングもできるようにセットしていました。あくまでも生のライブを観てもらうことが大切だけれど来られない方のために小さな放送局のように運営していたんです。ただ、やはり表現というのは生には勝てない弱さというものがあって。どれだけ頑張って心を込めて配信で画面越しに表現しても生で聞くからこその臨場感、肌で触れる空気は凄いパワーなんだなと実感したんです。
ライブやミュージカル何にしてもそうですが、生でみるのが一番。だけれどやっぱり、例えば一つのライブに3000円というお金と時間という対価を払って見に行きました、けれど「あぁ、こんなもんかもう行きたくない」というパターンも多数存在するんですよね。そこはどの分野もまだまだ課題があるな、と思っていて。
ライブハウスの話には戻るんだけれど、やっぱり箱(ライブハウス)側としては、来ていただいたお客様が最初から最後まで楽しんでいただけるように、どれだけの思いを込めてイベントを作りあげるかは箱側に責任がある。と僕は思っていますね。今も素敵な箱が沢山ある中で、一つの箱だけではなくてそれぞれの箱が特色を活かして、情熱持って時代とともに工夫し続けアーティストに寄り添い続けることで今後のライブハウスのビジネスの在り方は変わると思っています。僕も日々学び続けていますがそう感じるのが本音です。
分かりやすくいえば大きい例えかもしれませんが「ジブリ」の作品が公開されたら多くの人は「新作がでた、見に行こう」って興味を持って動くじゃないですか。それが「ディズニー」であってもまた同じで。それらで働く人たちは、表現に人生をかけている方の集団だと思うんですよね。全ての表現者がその感覚に近しい情熱でモノづくりをし続ければさらに日本の音楽業界、そしてこの関西のライブハウス業界も面白いことになると思うんです。僕自身の目標は「ソアーズが作ったモノやから観に行こう」と思ってもらえること、見に来てよかった!と思ってもらう自信はあるんです。今のライブハウス全ての課題であると思っていますね。
僕も、コロナ渦が起きる前働いていた時は「来年までライブハウスというカタチでできるのかな」と疑問があったんです。それは何故かというと僕が学生時代は「あの店に行ったらいい音楽が聴ける」という感覚があったし、一般のお客様がライブハウスに遊びに行くという文化が今よりも活気づいていたからなんです。当時はライブハウスに出るにはCDのデモテープを送って審査があって…とハードルが高い場所でもあったり、それこそ気軽に出られる場所では無かったという背景も関係するのかもしれません。信頼関係ができてからとか、オーナーに気に入られないと舞台にすら立てないということは僕自身も実体験しました。デモテープを聞いてもらうために東京まで出向いて、2500円のチケットのノルマが26枚だった時もありました(笑)だけれど、それでも頑張って憧れの舞台に立つためにと、ライブ一本に対する向き合い方も演者としてそれぞれが持っていて当たり前だったんですよね。
その時代のシステムは良いのか悪いのかはさておき、ステージに立つということが昔に比べてリスクが減ってきた今の時代であっても「ノルマ無しです」と聞いたからといってお客様を呼ぶ努力をしなければ、アーティスト側も未来は無いと思っていて。当日までベストを作って頑張ったけれど呼べなかったは仕方ない。その努力を箱は見ているし、そのライブ一本に対する向き合い方は箱とアーティストお互いが信頼し合って作り上げていくモノであると僕は思っていますね。勿論、アーティストがこの日のライブに向けて頑張ろう!と思えるかどうかも箱の責任でもあると思いますし、人と人なので支え合うべきだと思っています。
最後になりますが、今後Soars Musicとして挑戦したいことや、片山さん個人の目標を教えてください。
実は今数年後に向けてのある脚本も全力を注いで書いているところなのですが、自分が一つ成長することで周りも相乗効果として上がると思っているので自分のチカラを常に高めていけるようには意識していて。この一つのライブハウスを盛り上げるぞ、というだけではなくてSOARS MUSICとして関わる人や物事すべてに感謝をしながら、共に皆と作り上げていきたいです。願いとしては、僕がいつか亡くなってからの未来でもずっと情熱絶やさず続いていけばいいな。と思いますね。
めちゃくちゃ派手に言うとウォルトディズニーになりたいな。(笑)
それぐらいの熱い思いを持っています。いつか僕が作る組織の中の人たちは、ココで表現することで生活できるような形態を作りたいと思っています。僕がどこまで尽くせているかはまだまだこれからですが。いやあ、ここまで読んでいただきありがとうございました。
ミュージカル「DREAMER」キャスト紹介動画
ミュージカル「Eraser」Team Violet(今津直幸・西原希蓉美・柿原千春)劇中歌「君を幸せにする」「明日は、どんな1日になるかな」
GATEWAY/みゐ
フェイクアウトハーモニー2 主題歌/瀧本りおな